慣れないヒールにふんわりスカートを纏ったザ・女の子な私はそわそわしながら人を待っていた。一緒に旅をしている仲間なので待ち合わせの必要は全くないのだが、マリアンが「デートってのは待ち合わせも重要なのよ」と私にはよくわからない理由でウインクしてきたのである。そもそもデートなんてしたこともない私は秒で納得し、わざわざ別行動を取った。普段は動きやすい服装しかしない私のこの姿を見てどう反応するだろう。うわっ気持ち悪いとか思われないかな。実は化粧も(マリアンが)少ししたんだけど気付くだろうか。……緊張しておなか痛くなってきた。帰りたい。まだ時間前なのに早くも心が折れそうになっていたところへ紺くんが走り寄ってきた。ああ、もう逃げられない。

「ごめんごめん、遅くなっちゃって」
「い、いや全然待ってないから大丈夫だよ」
「ほんとにごめんなー。しかもそんな恰好してるから誰かと思ったよ」
「……に、似合わない……よね、やっぱり」

 紺くんの反応を見て私は改めて後悔する。やっぱりやめておけばよかった。マリアンの口車にまんまとのせられたのがだめだったのだ。「はちゃんとすればちゃんと可愛いんだから!」と何故か当の本人よりもはりきっていたので勢いに押されてしまったが、人間慣れないことはするもんじゃないなと私は肩を落とす。そりゃ、ちょっとは期待してた……けど。私の中にほんの少し残っていた米粒ほどの乙女心はこの瞬間粉々に粉砕された。目に見えて気を落とす私を見て紺くんが慌てたように「いや似合ってる似合ってる!すげー可愛いよ!」とフォローする。……今、なんて?信じられないような台詞を紺くんに言わればっと顔を上げた。言った本人がはっとしたように赤面していたからどうやら空耳でも勘違いでもないらしい。えーと、こういう時って素直にお礼を言えばいいのかな?とりあえず失礼にならないようにこりと笑ってありがとうと言うと紺くんは目を逸らしてしまった。あれ?もしかして間違った?

「……やっぱもちゃんとしてれば女の子なんだな」
「マリアンと同じこと言ってる」
「いや普段のも十分女の子だと思うけどさ!そういう服装初めて見たから」
「うん、なんか私よりマリアンのほうが気合入ってて断れなくて」
「どうせならこれからもずっとその恰好しててほしいよ」
「うーん、それじゃ姫様を守れないからなあ。これ、ちょっと動きにくいんだ」
「うわっ、捲らなくていいって!」

 ほら見てよ、このひらひら。と、ついいつもの調子で膝丈のスカートを太腿まであげようとしたら慌てた紺くんに止められあ、ごめんと謝った。こういうところで自分の女子力のなさを実感し女の子って大変だなあと他人事のように思ってしまう。紺くんはやっぱり女子力の高い子の方がいいのかな……マリアンみたいな……いやあの人は女子っていうカテゴリーに入れていいのか謎だけど、私から見てもマリアンはとても素敵だと思う。料理もできて立派に護衛の任も務めていて、深く考えなければあれほど完璧な女性はいないのではないかと羨ましくなってしまうくらいだ。まあ私も姫様直々に戦闘力を買われて護衛に選ばれた身ではあるのだけれど、自慢じゃないがほかはどれも人並みかそれ以下だと胸をはれるので女子力ですら勝てないとなるともう性別交換した方がいいんじゃね?とすら思えて勝手にため息が出てくる。ふと紺くんを見上げると先ほどと変わらず赤面したままでキョロキョロ目を泳がせていた。もしかして紺くんも照れてるのかな。そうだったらちょっと嬉しいかもと笑っていたらそれに気づいた紺くんに「何笑ってんの?」と言われてしまい慌てて何でもないよと首を振った。

「私、デートって初めてなの」
「……そう、なんだ……」
「うん、紺くんはしたことあるの?」
「……ない」
「なんだ、緊張して損した!」
「えっ、それどういう意味!?」
「いや紺くんはこういうの慣れてて私ばっかりあたふたする羽目になったら嫌だなあと思ってたから」
「ああ……なんだ……まあどっちにしろそんなに緊張する必要ないんじゃね?……って俺が言っても説得力ないか」
「あはは、顔真っ赤だからね」
「……っ、もな!」

 紺くんと話していたら何だか緊張してるのが馬鹿らしくなってきてあんなに心配していた服装のことだとか女子力のなさもどうでもよくなってきた。いつも通りでいればいいのかと気付いた私が紺くんの袖を引っ張ってちょっとおしゃれなカフェに誘ったら逆に手を握られてしまってやっぱいつも通りとか100年早かったわと早くも挫折してしまうのだった。

一歩を踏み出す勇気::確かに恋だった