「騎士ってセングレンみたいにムキムキのおっさんばっかりかと思ってたよ」
「私、弱そうに見えますか?」
「いやそういうわけじゃないけどさー、ちょっと意外っていうか」
「人間は見た目じゃないですよ?」
「まあそうだけどさ、って綺麗な顔してるしそのうち姉さんみたいになっちゃうんじゃないかと思って…」

 紺君に「実は私女なんです」と言いだせないまま既に数十日経っている。今更なのでもうこのまま男で通すべきか正直に告白して楽になろうか、私は未だに迷っていた。そもそもこの男装は旅の途中で女ばかりだとなめられないようにと思ってしているだけなのだが、幼女とオカマとムキムキという個性派の面々のおかげでどうやら私は紺君の目に唯一まともに映っているらしい。私だって好きで隠しているわけではない。ともに旅をする仲間として、隠し事をするというのは忍びないし……というかそもそもそこまで重大な秘密というわけでもないし。ただカミングアウトしようとする度に何故か発生するトラブルによって今までそのチャンスを逃しているだけなのだ。勿論マリアンたちはそれを承知であえて秘密にし紺君の反応を見て笑いを堪えている。この際誰でも良いからしれっと言っちゃってくれればいいのにと半ば自暴自棄になっている私の気持ちを察してほしいと思う。

は脱いだらすごいもんねぇ?」
「……マリアンは黙っててくれるお願いだから」
「ま、まさか……も脱いだら筋肉隆々!?」
「いや違うから」
「もう言っちゃったら?楽になるわよ」
「……そうだよね……」
「え?何を?」
「あの、紺君……実は私……その、」
「ちょちょちょ、タンマタンマー!」
「……え?」
「すっげえ嫌な予感しかしないんですけど!BL的な展開はごめんだよ!」
「BLって何?」
「さあ?」

 紺君が頭を抱えてのたうち回っているうちに、セングレンが買い出しから帰ってきた。地面でわさわさしている紺君を一瞥したセングレンは何事もなかったかのように「そろそろ出発しましょう」と姫に声をかけたため、またしても私のカミングアウトは失敗に終わってしまった。しかし紺君の異常な嫌がり様は一体何なんだ。もういいじゃないかこのパーティは個性派揃いってことで。すでに手遅れだよとため息が出る。みんなが歩き出してるのに未だに悶絶してる紺君に置いていきますよーと声を掛けたら突然起き上がって、何やら神妙な面持ちでこちらへ向かってきた。

「どうしたの?おなかでも痛いの?拾い食いするからだよ」
「いや、してねえし!そうじゃなくて……俺、だったらBLでもいいかな……ってぐああああ!」
「……マリアン、紺君が壊れた」
「やっぱり拾い食いでもしたんじゃ……」
「紺は元から変な奴だっただろう、何を今更」

 酷い言われようだが少し心配なのでとりあえず薬を渡したら何故か顔を赤らめられた。最近の若い子はよくわからない。

月を打ち落とす::静夜のワルツ