休日は専らアウトドア派である。といっても行先は近所の商店街とか図書館くらいなので本当のアウトドア派の人たちには死んでも口外できない。家にずっと引きこもっていてもやることがないし部屋に一人きりだと何だかこの世界に一人ぼっちになってしまったような妙な寂しさが込み上げてくるので、とにかく誰でもいいから人間が存在していることを確認したくなる、というのが私が毎週休日に外出をする理由である。父親は出張三昧、母親はパートの掛け持ちで家に居ないことも多いという共働き家庭だから余計にそう思ってしまうのかもしれない。今日は図書館に行こうかなと、ワンピースに袖を通しながらぼんやりと考えた。図書館なんて徒歩15分くらいの超近場なのでこんなかわいいワンピースでおめかしするようなこともないのだけど、何となくそんな気分になって普段はしないようなメイクまでしてから家を出た。
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休日にも関わらず図書館の利用者は少なく、広い閲覧室はがらがらで座りたい放題な状態だった。窓際がいいなあなんて思いながら日当たりの良さそうな席を探している私の目に見たことのある姿が映り、あっと声を上げてしまう。火風くんだった。確か毎日ゲームやっててあまり外出はしないと言っていた彼がここに居ることに驚いた。うーんと唸ったり頭をぐしゃぐしゃにしたりしてるのを見ると、テストが近いから勉強だろうか?声を掛けても大丈夫かな?学校以外で話しかけたら迷惑かな?と本を持ったまま悩んでいたら火風くんがぱっと顔を上げた。距離は1.5mといったところ。人も少なく、火風くんをじっと見ていた私と目が合うのは当然のことだった。
「こ、こんにちは……」
「おー、も勉強?」
「いや、私はただの読書だけど……」
「まじかよ、もしかしてテストとか余裕って感じ?」
「そういうわけじゃないけど、今日は勉強はお休みしようと思って」
「まあ、毎日勉強なんかしてらんねーよな」
国語の辞書を手に持った火風くんは「誰だよテストなんて考えたやつ」とぶつぶつ言って立ち上がった。火風くんはまるきり勉強ができないというわけではないみたいだけど(話が上手だから、頭の回転は速いのだと思う)、あまりやる気はないみたいで授業中は寝ているところをしょっちゅう見るから勉強している姿は貴重な気がする。
「って国語得意?」
「え?うーん、得意ってほどでは……」
「ちょっと教えてほしいんだけど」
「……えっ……」
「あ、悪い、読書の邪魔だよな」
「い、いやいや、私でよければ!」
「まじで?いいの?」
大丈夫大丈夫とわざとらしいくらい首と手をわたわた動かして了承して心臓ばくばくのまま火風くんの隣に座った。この前の相合い傘事件といい、なんか最近いいことばかりな気がして怖い。もう今年の運は使い果たしてしまったのではないか。ここがわからなくてーと問題文を指差す火風くんの手を綺麗だなーと思いながら、緊張で吃りつつ一生懸命解説する。国語は別段得意といえる科目ではなかったが、元々文字が好きな私にとって国語の文章問題は好きな部類だったので毎回試験ではそれなりの点数を稼いでいた。しかし今日ほど国語好きで良かったと思ったことはない。思った通り火風くんは私の拙い解説もすぐに理解して問題を解いていった。
「いやー、が来てほんとに助かったわ。たまには真面目に勉強するかと思ったけど全然わかんなくてさ」
「教え方、分かりにくくなかった?」
「そんなことないって、すげー分かりやすかった!」
「う、うん……そうだといいんだけど」
「そうだ、お礼に何か奢るよ」
「……えっ!?いやいやいやそんな大したことしてないし」
「嫌だったらいいんだけど……」
「……いっ、嫌じゃないです……」
照れくさそうにほっぺをぽりぽりと掻く火風くんを見てるとこっちまで恥ずかしくなってしまい視線を泳がせる。おしゃれしてきてよかった。私、このまま死んでもいいかもなんて思ったりしながら火風くんの後を追って出口まで向かった。
死因は多分心臓発作