「何か食べたいもんある?」
「えー……えと……」
なんやかんやで火風くんにお礼として何か奢ってもらえることになり、私たちは図書館を出た。最近の駅前というのは何でも揃う便利な施設が多くて目的もなくたむろしたい若者にとってはなくてはならないものになっている。私たちもそんな若者の例に漏れず「とりあえず駅前行っとけ」的テンションでだらだら歩いている……というのは表向きで、実際私は先日同様に極度の緊張で火風くんの方を見れないでいた。しかも今日は休日。学校以外で火風くんとこうして並んで歩くだなんて。
「の好きなもんでいいよー」
「うっ、うん……」
「そんな深刻に悩まんでも……」
またしても火風くんに苦笑いさせてしまって申し訳なく思いながら、私は駅ビルのフロアマップとにらめっこする。三鷹にも大規模とは言えないが駅ビル的な施設があり、2・3件のファミレスや喫茶店が入っていた。ぶっちゃけラーメンが食べたい気分なんだけれど、何となくここはなけなしの女子力的なものを出しておきたいという小さな抵抗と、今着ているワンピースがクリーム色ということもあって脳内会議の結果却下となった。結局地元なのに、というか地元だからこそ一度も入ったことのない古めかしい喫茶店に決めたら、火風くんは「オッケーオッケー」と笑った。人懐っこい笑顔。火風くんに惹かれた理由の一つが今私だけに向けられていて、たったそれだけのことなのに耳が熱くなるのを感じる。
「ここ来た事あるの?」
「ううん、ないよ」
「俺もないなー……つか、男一人じゃ入りづらいっていうか」
「あはは、確かにそうかも」
メニュー越しにこっそり火風くんを盗み見すると、こういうお店には慣れてないみたいで頭上に「???」が浮かんでいるように見えた。うわあ……これって、デートみたいじゃない?とまた勝手にドキドキした私は慌ててメニューに視線を戻した。デートなんて初めてだからこういう時って女の子は何を食べるのかわからなくて、あれじゃないこれじゃないと考えこんでしまい無駄に時間がかかってしまった。火風くんは「ゆっくりでいいよ」だなんてまた優しく気遣ってくれるものだから余計に申し訳なくなってしまう。あれこれ迷った末、私は結局無難にパスタとケーキセットを頼むことにした。うん、これなら大丈夫だろう。火風くんはドリアにしたらしい。あ、それも美味しそう。
料理を待つ間、家でなにをしているかという話題になり、火風くんが「今やってるゲームが難しくてさあ」と悔しそうに語る。はっきり言ってゲームはさっぱりな私だが、ゲームのことになると火風くんは生き生きしているように感じてなんだか微笑ましくなり、うんうんと相槌を打った。
「って甘いもん好きなの?」
「うん、昔からケーキには目がないんだよね」
「何か可愛くていいなそういうの」
「んぐッ!」
「うわっ!だ、大丈夫か?」
「……う、うん ……ごめん……可愛いとか初めて言われたからびっくりしちゃって……」
「あー……えーと、まあ、思ってたことが口に出ちゃって」
「……」
「……やっぱ今のナシ!取り消し!」
「ええっ!?」
はっとして周りを見るとかなり注目を集めていて私たちは黙りこんだ。「火風くんのせいだよ」と言ったら「お前も共犯だろ」と指を差されたので二人して小さく笑った。
きらきらと輝いてみえる世界