ろくでもなくすばらしい世界に眠れ8
今思い出しても悶絶するほど恥ずかしいが、ありえないことに曽良さんに告白された。奇跡か。私の頭にピンポイントで隕石落ちてくるというくらいの奇跡だよこれ。まあそれはいいとして、その前に悪口としか思えないこといっぱい言われてた気がするんですが……本当に私の事好きなのかこいつって思ってしまうほどボロクソに言ってたような。イライラしますとかムカつきますとかただの悪口だよね。でもやっぱり思い出すのはそのあとの台詞だ。好きですなんて、好きって、うわああああ恥ずかしい!すっごい恥ずかしい!と顔を覆って部屋の端から端までごろんごろんしてたらいつの間にか本物の曽良さんが立っていてゴミでも見るかのように見下ろされていた。
「……こんにちは……」
「頭に虫でも湧きましたか」
「いえ、至って健康体です!」
「少しは落ち着いてるかと思ったんですが」
「え?」
「昨日僕が言ったこと覚えてますか?」
「き、昨日……のことは……えと、」
「僕は二度と言いませんからね」
「……そうですか……」
もう言ってくれないのか。……できることなら録音しておきたかったと少しがっかりした。多分曽良さんがデレることはもう二度とないだろう。相変わらず無表情のまま「それで貴女はどうなんですか」と真っ直ぐ見つめられ私は言葉を詰まらせた。どうって、どうなのかな。ちゃんと考えたことはなかったけれど、好きか嫌いかで言ったらもちろん好きだ。意地悪な人だと思うことも多いけど私が本気で嫌がるようなことはされたことがないからきっと根は優しい人なんだろうってことはわかるし、お菓子持ってきてくれるし……あ、これは違うか。でも私自身は曽良さんに見合う人間だろうか。自慢じゃないが身体が弱いことに関しては江戸で一、二を争うのではないかというくらいだ。病気にかかってそのままコロッと死んでもおかしくないとお医者様に言われたことがある。いつ死んでもおかしくないのだ。もしかしたら明日風邪を拗らせて死ぬかもしれない。その程度の命の私に人並みの恋なんかできるはずがないと思っていたしそれでもいいやと諦めていた。なのに、曽良さんが私のこと好きだなんて言いだすから。
「……わ、私は体弱いし……」
「知ってますよ」
「ほかのカップルみたいにデートもろくにできないし……」
「別に構いません」
「可愛げもないし」
「……それを自分で言いますか」
「ううう……だって、だって」
「さんは僕のこと嫌いですか」
「……好き」
「ならつべこべ言わないで素直になりなさい」
「……それは何か悔しい」
「ほう」
私のほっぺたをつねった曽良さんが「僕に敵うとでも思ってるんですか」とにやりと笑った。笑った曽良さんは初めて見たかもしれない、ああやっぱりこの人はドSだと確信したが全く敵う気がしないのはわかっていたので素直にごめんなさい謝りますからやめてくださいと懇願するしかなかった。