ろくでもなくすばらしい世界に眠れ7
「どうも」
「……どうも」
「風邪は治ったみたいですね」
「……おかげさまで」
「さん、口が半開きですよ」
「……あ、すいません」
数日後何事もなかったかのように現れた曽良さんに口が半開きになるのは無理もないと言ってやりたかった。ちょっと前の私の一人語りは一体なんだったのか。タイムマシンがあったら飛んで行って自分の口を塞いでやりたい。例によってお土産を持参した曽良さんはそれをずいっと差し出し「くず餅です」と言った。わーいくず餅大好き!とかはしゃげるような雰囲気でもなかったのでしずしずと受け取りお礼を言った。どうしよう、凄く気まずいんですけど。私だけなの?曽良さんは気にしてないの?ともやもやした気持ちばかり広がって一体どんな会話をすればいいのか見当もつかない。
「先日はすみませんでした」
「……はい?」
「ですから、勝手に不機嫌になって失礼なことを言ってしまったなと反省しました」
「……いえ、怒らせたのは私ですから……」
「そうですね、そもそもの原因は貴女ですが」
「……はい……」
「僕もちょっと大人気なかったと思いまして」
「いえこちらこそ、すみませんでした……」
そこで会話は途切れる。再び居心地の悪い雰囲気を味わうことに耐え切れなかった私は「くず餅食べましょうくず餅」といただいたばかりの包みを開けにかかったのだが、何を思ったのか急に曽良さんが私の腕を鷲掴んだためにそれは未遂に終わった。びっくりして見上げた曽良さんはしかめっ面をしていてやっぱりまだ怒ってんじゃんと言いたくなったが蒸し返すのもアレだなと口にはださなかった。
「非常に不本意ですが」
「……なんでしょう」
不本意なのはこっちだよと思いながら次の言葉を待ったが、曽良さんはそのまま微動だにしない。自然こちらもずっと曽良さんと見つめ合う形になった。むしろ蛇に睨まれた蛙状態と言うべきかもしれない。すっげ怖い。殺気で死にそうと思ってごくりと唾を飲み込む。あと地味に力が強いせいか手首痛いです。
「貴女が無理に笑ってるのを見ると、イライラするんです」
「はあ、」
「病弱って聞いてたのにムカつくくらい元気ですし」
「……」
「そのくせ人生諦めてるみたいな顔するところも気に入りません」
「あの、今のところ悪口しか言われてないんですが」
「黙って聞きなさい」
「……すいません」
「なのに、貴女の顔が頭から離れないんです」
「……」
「だから責任取ってください」
「……」
「……ちゃんと聞いてますか?」
「……えーと?ちょっと意味がわからないんですが?」
「馬鹿なんですか?」
「曽良さんの話が要領を得ないんです!」
「……貴女のことが必要なんです」
言いたいことはなんとなくわかったが遠回しすぎて反応に困る。ここは照れるところだろうか?ていうかそんな怖い顔で言われても。ぽかんとしていたら曽良さんが「……馬鹿なんですね」と可哀想な子を見るような目をしてくる。私は少しむっとして、はっきり言ってくれないとわかりませんと意地悪してみた。付き合いは短いが曽良さんの性格はだいたい把握してる。こういうタイプは自分が常に主導権を握っていないと気がすまないのだ。ふふんせいぜい困るがいいわ!とほくそ笑んでいたら「好きです」とさらっとあっさり言われてしまい逆に私がフリーズすることになった。