ろくでもなくすばらしい世界に眠れ7
すっかり風邪も治った私は久しぶりに部屋から外に出た。といっても部屋に面する庭に出ただけなので特に何をするわけでもないのだが、久しぶりに踏んだ土の感触に嬉しくなり意味もなく庭を行ったりきたりしてみる。寝込むたびに「あ、今度こそ私死ぬかも」とネガティブ思考に陥りながらも結局は回復し、私はまだしぶとく生きている。死にそうなほど辛いのは本当だ。もし他人にちょっと大げさに言ってるだけでどうせ大したことないんだろなどとつっこまれたら、ふざけんなじゃあ代わってくれよまじで辛いからな!肉体的により精神的にきついから覚悟しとけよこの野郎!とつっかかる自信があった。今回はいつもよりキたな、とそっとため息を吐いた私の脳裏にはしかめっ面の曽良さんが浮かんだ。長引いたわけではなかったがそれ以上に曽良さんを怒らせてしまったという罪悪感が大きかった私はらしくもなく喋る気力をなくしてしまったのだ。それを見た杉山さんがこりゃ大変だとにますます過保護になってしまったので一日しか持たなかったが。
「……もう、来てくれないかも」
ぽつりと呟いた声はひんやりした空気の中に溶けていって心まで冷えてしまうような気分になった。あの時の私は曽良さんに何て言うつもりだったんだろう。もし伝えることができたとして曽良さんは理解してくれただろうか。あれ?これじゃ私理解してほしいと思ってるみたいじゃね?私が無理にでも笑顔を作るのは単にマイルールみたいなものだから他人に説明したところでそんな理由?と鼻で笑われるのがオチな気もしないでもないのに。また気分が沈んできたところでこれ以上考え込むと病気の奴がぶり返してきそうなので、ふるふると首を横に振って頭の中から曽良さんの残像を追い出した。
「大丈夫だよ、今までだって一人だったんだし」
寂しくないもん、と幼稚な暗示をかけて無意味な土いじりをする私の背中にはさぞ哀愁が漂っていることだろう。