だいせんじがけだらなよさ

13

~~!ゲームやろうぜ、ゲーム!!」
「いいですよ。死ぬまで殴るのをやめないゲームとかですか?」
「お前、痛いのが好きだったのか……そうか」
「あ、いや違いますごめんなさい。ちょっとした獄卒ジョークなのでこっちにツルハシ向けないでください」
「なんかなあ、回すやつ!」
「ロシアンルーレット、だバカ」
「すいません死ぬまで殴り続けるのと大して変わらない気がするんですけど」
「使うのこれな!」

 平腹がポケットから出したのは饅頭だったので、嫌な予感がしたが中に入れたものを聞くと抹本監修のよくわからない薬だということがわかり一気にやる気を失った。なぜ田噛がちょっと乗り気なのかもわからない。すでに一服盛られているのでは?などと疑いながらは饅頭をひとつ手に取っていろんな角度から観察した。この饅頭は獄都でも美味しいと評判の店のものである。できれば普通に美味しく食べたい。ごくりと唾を飲み込んでいると「お前それにすんの?」と平腹から尋ねたので、慌てて彼の手に戻した。もう少しよく考えさせてほしい。

「……当たったらどうなるんです?」
「そりゃ死ぬだろ」
「死ぬ!」
「いや、その死因を知りたいんですが」
「あー……なんか弾けるって言ってた!」
「なにが??存在が弾けて消えるんですか??」
「安心しろ、最悪内臓が破裂するだけだ」
「安心できる要素が一つもない……!ていうか、田噛さんがこの手の話に乗るなんてぜっっったい怪しいです!」
「……、俺にも遊びに付き合ってやろうって気分の日くらいある」
「…………」
「疑いすぎだろ」

 最初に選ばせてやるから、と再び3つの饅頭を目の前に出されたはそれらを真剣に見比べる。二人はグルだろうか?ちらりと平腹の顔を見上げると、いつものように黄色の瞳をかぱっと大きく開き、不思議そうに首を傾げた。平腹が謀略をめぐらすなど考えられないが……もしかしたら田噛が首謀者かもしれない。だとしたら一体何のために……吟味するふりをしながら頭の中では二人がなにを企んでいるのか必死に考えたが、暴いたところで田噛の頭脳に対抗できる気がしなかったので早々に諦め当たりを引かないことに全力を尽くすことにした。二人が結託して自分を陥れるつもりなら、この饅頭になにか目印があるはず。は個包装された3つの饅頭を入念に観察した。だが包み紙に異常は見当たらない。一度開封したような形跡もなく、変色しているといったこともなく、どこからどうみてもあの有名和菓子店の人気商品である。

「まだかー?」
「諦めて早く選べよ。お前毎日のように死んでるんだから今更だろ。ノルマ達成だと思え」
「うっ……そうです、けどっ……!」

 たしかに、任務でも鍛錬でも瀕死以上の重傷など日常茶飯事と考えればそうかもしれない。だが死なないといっても痛みは感じるのだからできれば死にたくない。しかもなにかが弾けると言われれば猶更だ。しかしいくら観察しても考えても3つの饅頭の違いは見いだせず、結局は目を瞑って手に触れたものを選んだ。そのあとで田噛も平腹の手から1つを摘み取る。

「よーし、選んだな!いっせーのーせで行こうぜ!」
「……うう……弾けたくない……」
「往生際が悪いぞ、

 平腹ののんきな掛け声とともに、、平腹、田噛は饅頭を口に含む。

「……」
「……」
「……あれ?」

 自身の体が爆発するでもなく隣から肉片が飛んでくるでもなく至って静かな状況に疑問を感じつつ、は固く瞑っていた目を開けた。両隣にはもぐもぐと饅頭を咀嚼する平腹と田噛。

「え?爆発は???」
「ドッキリってやつだ、
「は?」
「うぇーい!騙されてやんの~!」

 平腹がばしんばしんとの背中を強打する。しばらく混乱していただがいつまで経っても誰の体にも異変が起こらないことで状況を理解した。

「ど、どっきりかあああ!どっきりでよかったあああああ!お饅頭美味しい!」
「よかったな~」

 心なしか饅頭もより一層美味しく感じる。は生きている喜びとともに饅頭の甘みをかみしめた。

「まあ、抹本の薬入りってのは本当だけどな」
「えっ」
「背が伸びるって言ってたんだけどなー。なにも起こらないな!つまんねー」
「……たしかに、それはちょっと残念かも」

 まあ抹本のことだから、身長が伸びるどころでなく最早巨人みたいになるとか規格外のものを仕込んできそうだが。その後もいつまで経っても効果が表れなかったため結局誰が当たりなのかわからないまま、3人でただ饅頭を食べるだけになってしまった。

「緑茶がほしい」
「言い出しっぺの法則だぞ、
「あ、じゃあやっぱナシで」





***




 その夜、夕食当番であるがいつまで経っても食堂へ降りてこないため、田噛はイラつきながら彼女の自室の扉を乱暴にノックした。……返事がない。いないのか?と田噛が引き返そうとしたところで扉が細く開いた。

、てめえ……当番サボるとは良い度胸……」
「た、田噛さぁん……」

 半泣きのが震える声で田噛の名前を呼ぶ。田噛は違和感を覚えたが、すぐにその正体に気付いた。目線がおかしい。は特務室でも一番小柄で、「目標は抹本」などと勝手に対抗意識を燃やしながら日々身長を伸ばす努力をしていた。その抹本と田噛の身長差は10cm以上あるのだが、今目の前に立つはどう考えても抹本より大きい。どうしてこんなことになったのか。心当たりは双方とも一つしかない。

「お昼寝して、さっき起きたらもうこんな状態で……」

 さすがに田噛も驚いて言葉を失くす。抹本の人体実験は今に始まったことではないが、身長を伸ばす薬に関してはまだ成功していないと言っていた。「し、失敗しても、最悪爆発するくらいだと思うよ……」と自信なさげな垂れ目を思い出し、もしこれを報告したら大喜びするだろうなと田噛は心の中で苦笑する。

「どうせ一時的なもんだろ……元気があるなら早く降りて晩飯作れ」
「……あの、なにか着るもの貸してもらえませんか?」
「はあ?なんで俺が」
「自分の服じゃ、丈が足りなくて……。上だけでいいですから!」
「チッ……」

 めんどくせぇ、と思いながらも田噛は自室からTシャツを持ってくる。扉越しにそれを手渡すと、は数秒で着替えて部屋から出てきた。いつもなら頭頂部が見えるほど低い位置にあった彼女の顔が自分とそう変わらない位置にある。顔は紛れもなくだ。そのことが余計に不自然さを感じさせた。

「いや~、来てくれたのが田噛さんで助かりました。他の人だったら説明がめんどくさかったので」
「……がでかいと気持ち悪いな」
「ひどっ!」
「言動が普段と変わらねえのが余計に気持ち悪い」
「そんなこと言って~、いつもより大人っぽくてドキッとしたりしないですか?ほらほら」
「お前はいっぺん衆合地獄にでも研修行って色気ってもんを学んで来い」

 にべもなくあしらわれ、はつまらなそうに息を吐く。たしかにただ身長が伸びただけで言動がアレでは大人っぽいもなにもないのだが、それにしても田噛は無反応にも程がある。ここはリアクション芸人さながらの反応が期待できる平腹にお披露目したいところだ。

「平腹なら肋角さんと出かけてるぞ」
「なぁんだ……」
「そんなに反応がほしいなら抹本のところ行ってこいよ。あいつなら飛び上がるほど喜ぶだろ」
「いやそれはちょっと……色々実験されそうだから嫌です」

 身長が高くなったこと自体は嬉しいのだけど、抹本の実験台になるのは気が進まない。食堂まで歩く間、は周囲をせわしなく観察した。内装はなにも変わらないのに、視点が違うだけでどこか別の場所のように感じる。上の窓枠に手が届く。田噛の後頭部が目の前にある。気のせいか歩幅も大きくて、進むペースも速い。

「田噛さんたちって普段こんな良い景色見てるんですね。羨ましいなあ」
「たいして変わんねえだろ」
「じゃあ今度抹本さんに背が縮む薬、作ってもらいます?」
「いらね」
「そんなこと言わないで……たまには私と同じ気分を味わいましょうよ」
「くだらねーこと言ってないで手を動かせ、手を。ただでさえ飯まで時間ねえのに」
「はあーい」

 たしか今日は斬島・佐疫コンビが任務で遅くなると言っていた。谷裂と木舌はすでに今日の仕事は終えていたはず……。外出中の平腹は肋角と食べて帰ってくるらしい。は頭の中で人数を数えながら食事の準備に取り掛かる。今日の夕食は親子丼だ。一口大に切った鶏肉、スライスした玉ねぎを割下と一緒にフライパンに入れて煮る。溶き卵を回し入れたら蓋をして、良い感じのところで丼へ移す。仕上げに三つ葉を載せているところで厨房に木舌が顔を覗かせた。

「やあ、今日の夕飯は……って……誰?」

です!」
「……え?うん……?たしかに、言われてみれば似てる……かな?」
「抹本さんの薬で背が伸びたんですよー。どうですか?」
「へえ、すごいねえ。なんだかだけどじゃないみたい」
「気持ち悪いよな」
「田噛さんがひどい……」
「まあ、たしかに違和感はあるけど……それより、ちゃんと元に戻るんだよね?」
「たぶん……私的にはこのままでいいんですけど」
「そうなのかい?」
「だって、身長高い方がなにかと便利じゃないですか」
「お前のその身長に対する強いこだわりはなんなんだよ」
「はあ~~~あ、170cm超えてる人にはわからない悩みですよねどーせ」
「理不尽な理由で勝手にキレてんじゃねえよ……」
「ま、まあまあ。でも、そのままだと君も困るんじゃないかい?」
「えっ……そうですか……?」
「ほら、制服も新調しないといけないし、私服だってつんつるてんだろ?」
「……た、田噛さんに借ります」
「ふざけんな」

 そうこうしているうちに人数分の夕飯が完成し、4つの丼を盆に乗せて食堂へ運ぶ。遅れて来た谷裂もの変わり果てた姿を見て固まったあと「たしかに、言われてみれば……似てなくもないな」などと若干自信なさそうに唸った。

「一時的なものなんだろう?」
「……みんな、そんなに私が大きいの嫌ですか」
「そ、そういうわけではないが……急に大きくなるとどうも調子が狂う」
はあのサイズ感で慣れてるからねぇ」
「明日戻ってなかったら抹本のところに行けよ」
「うっ……そうですね……考えておきます」


ラ・ヴィータ・エ・ベッラ