アステロイドシンドローム7

 そこそこ人通りのある広い道のど真ん中で、私は途方に暮れていた。まさか、この年で迷子になるとは……前後左右を満遍なく見渡してみても、杉元さんたちの姿は何処にもない。この街にはちょっと立ち寄っただけのため宿を取る予定もなくて、だから彼らの行先など私には予想もつかなかった。どうしよう、入口に戻るか、ここに留まって見つけてくれるのを待つか、探し回るか……だが土地勘も携帯電話もないような状況でうろちょろするのは得策ではない。というわけで探し回るは却下である。
 腕組みをして悩んでいると、正面から来た荷車を引いたおじさんに「邪魔だよ!どきな!」と怒られてしまい、私は漸くここが往来のど真ん中であることを思い出す。「あ、すみません」と私が謝る暇もなく、おじさんは猛スピードで走り去っていった。せっかちな人だ。が、こんなところで突っ立ってる私も私だなと溜息を吐いて、適当な路地にしゃがみ込んだ。お金もないし、どうしよう……。こんな時にも自分がこの世界の人間ではないことを思い知らされ私は心底怖くなる。頼れるのは杉元さんたちだけ。だから彼らとはぐれた今の私は親とはぐれた幼子そのものなのだ。
 細く暗い路地から、明るい大通りを観察してみる。目を閉じれば現代とさして変わらない喧騒が溢れ、私は少しだけ安堵した。私の来た現代とこの世界が繋がっているかはわからないけど、似ているのは確かだ。きっとこれから100年後、私が生まれて今の私になっていく。その時隣に杉元さんが居てくれたらいいのになあ……などと都合の良い想像をして心細い気持ちを慰めた。

ちゃん?」

 頭上から杉元さんに呼ばれ、ぱっと顔を上げる。そこには息を切らした杉元さんが膝に手を付いて立っていて、あれ、もしかして全力疾走で探してくれてた?などという純粋な嬉しさ半分、杉元さんがこんなに疲れてるところって見たことないかもといった空気読めてない嬉しさ半分な状態でその姿を見上げた。

「怪我してない?」
「はい、大丈夫です」

 はあーーーと長めに息を吐いた杉元さんが私と同じようにしゃがみこみ、それから小さな声で「よかった」と呟いた。

「急にいなくなるから、誘拐でもされたのかと思ったよ」
「あ……すみません、ただ迷っただけ……なんです」
「いや、迷っただけでよかった、ほんとに」
「探しに来てくれてありがとうございます」
「うん、じゃあ、行こうか」

 そう言って杉元さんは立ち上がった私に右手を差し出したが何を求められているのかわからなかったのでとりあえず右手を出して握ってみた。握手の状態である。頭にクエスチョンマークを浮かべる私に向かって杉元さんが苦笑いしながら「違う違う」と手を離した。次の瞬間唐突にその意味を理解するが、迷子になった後ではなんだか子供扱いをされているようでやけに恥ずかしい。

「いやいやいや、それはちょっと……」
「え?だってまた迷子になったらどうするの?次は探しに来ないかもよ?」
「……うう……でも……」
「冗談だよ。またちゃんがいなくなっても、俺が見つけるから」
「…………ありがとうございます」

 爽やかに微笑みつつ恥ずかしい台詞を平然と口にする杉元さんに狼狽えているうちに、私の左手が杉元さんの右手としっかり繋がれた。なんだか惚れた弱みにつけこまれているような気がしないでもない……けど。「どうしたの?」とでも言うように私の顔を覗き込む杉元さんは案外素でやっているだけかもしれない。天然って怖いなあと思いながら負けじと微笑み返す。

「これから外歩くときはずっと手繋いでようか」
「絶対嫌です」
「即答かあ」
「…………杉元さんは恥ずかしくないんですか?」
「んー、まあ、少し。でもちゃんがいなくなるよりマシかな」
「そんな、私いつもこんなにフラフラしてるわけじゃ……」
「黙っていなくならないって約束してくれる?」
「し、します」
「絶対?」
「……ず、随分念を押しますね」
「だってちゃんて突然現れたからさ、また突然いなくなるんじゃないかなって」
「それはまあ……神様の気分次第ってやつですね」

 こればっかりは私にもどうしようもないことである。神様の悪戯か超常現象なのか、一切不明だから確かなことは言えず、そう曖昧に返す。杉元さんは下を向いて「カムイか」とひとり呟いた。

星なんていつまでも過去形の光::彗星03号は落下した