※谷垣・三島・二階堂×2と怪談話
※三島くんのキャラは100%捏造です
※鼻で笑える程度のホラー要素があります
※一等卒たちをわちゃわちゃさせたかっただけ
それでもOKばっちこいな方はどうぞお進みください
「今日の夜8時半に倉庫まで来い」
話が見えず呆気に取られているうちに二階堂のどちらかはいなくなる。二階堂が絡むと大抵ろくでもないことに巻き込まれるのは今までの経験でわかっていたので、一体何を企んでいるのかと訝しんでいたら「早く拭かないと風邪引くぞ」と三島くんからの忠告が降ってきた。はっとして髪に手ぬぐいを当ててごしごしと水けをふき取る。短髪の利点はすぐに乾くことだな。もしかしてそういった時間的効率を考えたうえでの規則なのだろうか。なんてちょっと脱線しつつ脱衣所に掛けられた時計を確認すると、約束の(というか一方的に告げられた)時刻まで2時間ほど余裕があった。
「お前も行くのか?」
「え?何処に?」
「二階堂に呼ばれただろ?」
「あぁ……三島くんも呼ばれたんだ。じゃあ、行こうかなあ」
「なんだよそれ」
「だって、二階堂兄弟しか居なかったらコワイじゃん。色々と」
「……否定はしない」
苦々しい表情を浮かべた三島くんに向かってだよねーと苦笑する。二階堂兄弟による悪戯被害者の会は着々と会員数を増やしているらしい。三島くんと私がおよばれしている、ということは……きっと谷垣も声を掛けられているだろうなという謎の確信があったが、面子を想像したところで目的はさっぱりわからない。いや、二階堂の考えてることなんてわかりたくない気もするが……。
「倉庫に入ってさ、暗がりの中で銃剣構えた二階堂が待ち構えてたりしたら失神する自信あるわ」
「妙な自信を持つなよ……あいつらだって流石に兵営の中で刃傷沙汰起こしたりはしないだろ、たぶん」
「気絶したら部屋まで運んでくれる?」
「……放置したりはしないけど」
「さっすが三島くん!大好き!!」
「調子に乗るんじゃない」
夜の兵舎は怖い。私がちょっと怖がりだとか、暗がりが苦手ということを差し引いても不気味な雰囲気は変わらないと思う。そんな夜の兵舎を出て少し歩いたところに指定された倉庫はある。三島くんと二人で倉庫に向かっていると途中で谷垣が合流した。私を見て谷垣が驚いたような顔をするので首を傾げると「大丈夫なのか?」と心配され、更に頭の上に疑問符を浮かべることになる。
「お前ら、聞いてないのか」
「うん」
「谷垣は目的を知ってるのか?」
「二階堂は百物語で涼みたいらしい」
「……それって怖いやつ?」
「当たり前だろ。ほかに何があるんだ」
「……」
「……帰るか?」
「……いやっ!ここで帰ったら腰抜け野郎って死ぬまでからかわれる!!女に二言はない!!」
「そんな、大げさな」
もう倉庫は目の前である。その鉄扉より重く見える引き戸に手を掛けたまま固まった私は必死に気持ちを落ち着けていた。後ろから谷垣が「無理するなよ」とこれまた心配そうに声を掛ける。無理なんかしていないさ。これは武者震い、武者震い…………
「なんだお前ら、着いてんなら早く入れよな」
「ぎゃあああああああああああああああああああああッ!!」
「……うるせーな」
「うっ後ろから急に声かけないでよ!」
中に居ると思っていた二階堂ズがこともあろうに背後からやってきたものだから、私は文字通り飛び上がり悲鳴を上げた。面倒くさそうに舌打ちをした二階堂のどちらかが両手にろうそくをいくつか持っていて、「いいからろうそく点けるの手伝え」と言って真っ暗な倉庫に足を踏み入れる。二階堂二人に続いて谷垣がちらりとこちらを一瞥してから同じく暗闇に消えたあとに三島くんが「やっぱり帰るか?」と逃げ道を作ってくれたが、ろうそくに火を灯した二階堂が「怖いんだろ?」とむかつく顔で煽ってきたものだから意地になって震える足で倉庫の入り口を跨いだ。昼間でも薄暗い倉庫は夜になると何も見えなくなる。その中で5本のろうそくが私たちの身動きによる微風でちらちらと揺れていた。今更だが、百物語にしては人数が足りなさすぎないか?ろうそくも。何を隠そう百物語未経験である私は一人20回も話さなければいけないのだろうかと別の意味でもどきどきしていた。
「ひゃ、百物語ってさ……100話あるんだよね?」
「本来ならそうだが、そんなもん途中で眠くなっちまうだろ。今日は5話で終いだ」
怪談の途中で寝るとかどんだけ神経図太いんだよ二階堂……と私はひっそり引いた。私の右から順に二階堂、二階堂、谷垣、三島くんの5人がろうそくを囲んで輪になると、誰からにする?と右隣の二階堂が言い始め、二つ隣の二階堂が「からにしようぜ。こいつの話つまらなそうだし」と笑いながら指をさすので多少むっとしたがたしかに持ちネタなどないしどうしたものか……。首を捻って考えているうちに、そういえば兵村で変な噂が流れていたことがあったなあと思い出さないよう心の奥深くしまい込んでいた又聞きの怪談をふと思い出してじゃあ私から話すね、とわざとらしく咳払いした。
私の入植した兵村からは遠く離れた別の兵村での話だ。
ある日その兵村で子供が行方不明になった。村の人間が総出で捜索したけれど、その子供は遂に見つかることなく捜索は打ち切られる。それから暫くして村の門のど真ん中に大きな平たい石が置かれた。誰がなんのために置いたのか、ただの悪戯なのか、わからないがとにかく通行の邪魔なので、その石はいつの間にかどこかに捨てやられた。
暫くしてまた子供が一人行方不明になった。最初の子供が行方不明になってから数か月後のことだ。前回の行方不明事件はまだ記憶に新しく、今度こそ見つけ出してあげなければとみんな意気込んでいた。けれど二人目の子供も結局見つかることはなく、数日後、また門の入り口に平たい石が置かれていた。前回と違ったのは、石が二つ積み重ねられてたことだ。
これ以上行方不明者を増やすわけにはいかないと誰もが思っていたが、有効な策は思いつかない。結局のところ個人個人が注意するしかないという結論に至った。二人の子供は年齢も性別も故郷も違い、共通項といえるものは同じ兵村であるということと、いなくなった日はいずれも兵村が深い霧に包まれた時だったということ。一人目の子供は濃霧で相手の姿が見えないのが面白かったのか、かくれんぼを始めたらしい。「霧で何も見えないから今日はもうやめようよ」と一緒に遊んでいた別の子供が霧の中に呼び掛けたが、その時たしかに返事が返ってきたという。「わかった、今戻る!」と間違いなく本人の声が聞こえたそうだ。しかし、その子はそのまま二度と姿を現さなかった。二人目の子供は開墾作業をする父のもとへ水筒を届けに行ったらしいのだが、父親は会っていないと言う。一緒に居た数人の兵士も揃って首を横に振った。そこは子供が母親と何度も訪れたことがあるところで、平坦な一本道だ。もちろん崖のような危険な場所もなかった。霧が出ているとはいえ、通い慣れた一本道で迷うわけがない。迷うわけがない、はずなのにその子供はどこにも帰ってこなかった。
そんな気味の悪い事件が立て続けに起こったせいで、門前の石には誰も触ろうとしなくなる。しかし置かれた場所は毎日大勢が行き交う村の入り口ということもあり、誰かが誤ってその二段重ねの石に躓いてしまった。まさか、と思った村の人間たちの悪い予感は当たり、石が崩された日から数か月後またしても子供が行方不明になる。そしてしばらく経つと門の前に三段に重ねられた石が姿を現した。
「で、子供たちの行方は未だにわからず、犯人も目的もわからず終い。石を崩すとまた誰かが居なくなると恐れた村の人たちがもう一つ門を作って、石が置かれた方の門は通行禁止にしたんだって。それから神隠し事件は起こってないらしいよ」
話し終わったあと皆の顔を見渡したが誰も反応しないので「おしまい!」と付け足してろうそくを吹き消してみると、二階堂が「にしてはまともな話だったな」なんて上から目線で感想を述べた。ああ、思い出したら怖くなってきた……無意識のうちに三島くんに体を寄せていたらしく「暑いからあまりくっ付くなよ」と怒られてしまったが無理やり引っぺがさないあたりに彼の優しさを感じる。ので、私はそれに甘えて引っ付き虫ごっこを続行した。百物語(全5話)は私を始めとして時計回りでやることになり、続いて三島くんが通っていた尋常小学校の七不思議、谷垣はこのあたりの心霊名所の話、一人目の二階堂がろうそくで自分の顔を下から照らすという演出を加えて地元に伝わる妖怪の話をして、ろうそくの火を消していった。
「最後は俺だな。、ちびるなよ」
「誰がちびるか!」
「お前ら、ここで猫を見たことあるか?」
「俺はないな」
「私も……猫なんているの?」
「いない。でも、声はするらしい。日露戦争の前にちょっと噂になってたのを聞いたんだ。俺たちのいる27聯隊に今は使われてない予備室があるだろ?あの中を掃除している時に耳元で急に猫の鳴き声がしたんだと。それも弱り切って絞り出すみたいなのが。まあ、俺は聞いたことないし聞いたって騒いでた連中はみんな死んじまったから真相はわかんねえけどな」
二人目の二階堂もろうそくで顔を照らしながら話すので恐怖が二倍増しくらいになっていた気がする。さきほど注意されたことも忘れ、私は三島くんにしっかりとしがみ付いていたが彼は最早何も言ってこなかった。「怖かっただろ?」と得意げに笑った二階堂が火を消そうとしたので、私は必死で止める。だって、百物語ってたしかろうそくを全部消したときに何か起こる的なやつだったよね?私が制止したところで面白がるだけだろうなあと諦めていたが予想に反して二階堂は火を消すことなく静かにろうそくを床へ置いた。
「ま、これ消しちまうと何も見えなくなるからな。今日のところは言うとおりにしてやるよ」
「今日のところはって何?ていうか、もうやんないからね!勘弁してよぉ……正に明日その予備室の掃除当番だってのに」
「だから話したんだろ。聞こえたら教えろよ」
「二階堂、からかうのもその辺にしておけって」
「も……真に受けてたらきりがないだろ」
何故だか谷垣に呆れられてしまい、元凶である二階堂の背中に頭突きをかましたら頭に手刀を食らうという子供染みた喧嘩をしながら私たちは日常に戻っていった。翌日抜刀隊を大声で歌いながら掃除に臨んだ私だが、普通に怒られたのは言うまでもない。
気にしないフリも楽じゃない::家出