「次は蛙だよアルベルト!」
!近すぎるからもう少し下がれ!」
「何言ってるんですかモブリットさん、そんなに距離が離れてたらアルベルトと交流できないじゃないですか!」
「交流すんなよ!実験じゃなかったのかよ!」
「交流と言う名の実験です」
「すまんがちょっと意味がわからん!」

 周囲の駐屯兵団がああまた例の調査兵団か…と呆れた視線を向ける先にはハンジ班のとモブリットコンビが拘束された巨人を目の前にしてはしゃいでいた。はしゃいでいるのは実質だけなので、その相方であるモブリットには気の毒な話だ。今日の生体調査担当で派遣されて来たのは変人と有名なハンジ分隊長ではなかったが、最近駐屯兵団の中で「小さい分隊長」と言われ始めているであった。というのはがハンジに引けを取らない巨人バカであり巨人の生体実験で分隊長なみの生き急ぎっぷりを見せつけたことによってついたあだ名だったが、その名の通り今日も巨人の鼻先まで近寄って口をこじ開けようとしているのをモブリットが止めようとしていてちょっとしたお祭り騒ぎになっている。

「頼むからもう少し離れてくれ!」
「えー、だってハンジ分隊長はいつもこれくらい近づいてるじゃないですかーずるいずるい!私だって巨人と触れ合いたい!」
「分隊長の時も止めてるだろうが!あんたらそんなに巨人に食われたいのか!?」
「私たちは純粋に巨人と交流を…」
「だから実験をしろって」

 モブリットに羽交い絞めにされながらもなお巨人に接近を試みるその勇気には感心するしかないが見習おうとは誰も思わない。今まではそんな奇行をするのはハンジだけだったのだが最近になって調査兵団に奇行種が増えてしまったことに頭を痛めているのは他でもないモブリットだった。ハンジ班にはモブリット以外にもメンバーは居る筈なのだが「分隊長で慣れてるだろ」とかわけのわからないことを言われていつのまにか担当が増えていた。そんな理不尽な扱いをされても律儀に仕事を全うしようとしている姿を見た駐屯兵団が密かに苦労人と呼んで哀れんでいることを彼は知らない。しかしハンジの時と比べると部下であるに対しての方が割と強めに出られるようで、強引に巨人から引き離されて不満そうに手足をばたつかせるユツキに向かってモブリットはドスのきいた説教を浴びせていた。実験中に死人が出ては駐屯兵団としても大問題になってしまうから、モブリットの怒りも当然といえる。

「……わかりました蛙君は諦めます」
「よし、そうしてくれ」
「じゃあ今度は首と胴体を切り離した状態で……」
「一応聞くが切り離すのは誰だ?」
「もちろん私ですが」
「却下」
「何故に!」

 半泣きで「横暴だ!」と叫ぶを華麗にシカトして駐屯兵団へ指示を出すモブリットは見るからに疲れきっている。それに気づいた駐屯兵団メンバーは同情はするものの代わってあげたいとは誰一人思わなかった。

 生体実験が終了したのは日が落ちてすぐだった。昨日はハンジにより夜通し実験が行われていたことを考慮し、本日は少し早目に切り上げることになったのだ。周囲を囲む駐屯兵団に直接の奇行による害は殆どないが、見ているだけでハラハラドキドキの連続で精神的にはかなりきついと言えるこの実験が終わると誰もが緊張状態から解放されため息をこぼした。まだ実験したりないのか、は片付けをしながらアルベルトの様子をちらちら伺っている。そんな彼女をまたなにかやらかすのではないかと冷や冷やして見守っていた駐屯兵団の面々だったが、やがては諦めたようにため息を吐いた。ため息吐きたいのはこっちだと思われてるなんて本人は想像していないだろう。

「一日って早いですね、モブリットさん」
「俺は長すぎて嫌になるけどな」
「ちょっとおやじくさくないですか」
「誰のせいだと思ってんだよ……」
「えっ誰ですかモブリットさんをおっさんにしようとしているのは!許せないですね!」
「それ本気で言ってたら殴るぞ」
「女の子殴るとかドン引きですよ私」
「その前に俺はあんたの生き急ぎっぷりにドン引いてるんだが」
「どうもお世話かけます」
「わかってんなら控えろって!……もういいから帰るぞ」
「はあーい……ちょっと待っててください」

 生体実験のあとには欠かさない日課があった。初めてそれを目にした駐屯兵団はえ?何してんのこいつ?とばかりに作業の手を止めてそれを凝視していたが今ではみんな当たり前の光景となっている。

「アルベルト、チカチーロ、今日もありがとうね。おやすみ」

 どうして何度も己を食べようとしてくる巨人にこんな風にできるのだろうか。こいつらに仲間を数えきれないくらい殺されてきたのにと不思議で不思議で仕方ないのだが、何故かそれは愚問であるような気がして、先ほどまでの奇行が嘘のように穏やかな優しい眼差しで巨人を見つめるの姿を兵士たちは複雑な気分で見つめる。その視線に気づいているのかいないのか、は今日も日課を済ませて名残惜しそうに帰って行くのだ。

世界になにがあるのか、おしえて、よ::変身