「……何をしてるんですか」
「……何って……」
「膝枕?」

 芭蕉さんがそう応えた瞬間、曽良さんはハエでも叩くかのような動作で芭蕉さんを跳ね飛ばした。どたーん!と大きな音を立てて芭蕉さんの体は見事に壁へぶち当たる。ぴくぴくと痙攣している芭蕉さんに駆け寄ろうとしたら曽良さんに「放っておきなさい」と肩を押えられて立ち上がることすらできなかった。この人は鬼かと私は思った。

「どうして膝枕なんてしてたんです」
「え、芭蕉さんが眠いっていうから」
「……貴女、いつもそんなことしてるんですか」
「いやそういうわけではないですが……」

 膝枕ってこんなに罪深いの?とびくぶるしながら曽良さんの反応を伺うがそれこそ鬼のような形相の彼を見て激しく後悔した。見なければよかった。どうして膝枕ごときでこんな大惨事に……というか全部このおn……曽良さんの仕業なんだけどと思っていたら「じゃあ僕もここで寝ます」と先ほどの芭蕉さんがそうしていたように今度は曽良さんが私の膝の上に頭を乗せた。

「ちょ、えええ!?」
「芭蕉さんが良くて僕は駄目ですか」
「いやそういうことじゃなくてですね」
「なら問題ありませんねおやすみなさい」
「いやおやすみなさいじゃないですよ!」
「うるさい黙れ」

 そろそろ足が痺れてきましたと主張する前に寝息が聞こえてきてもう寝たよこの人!と思いながらごめんなさい私まだ死にたくないのでと動かなくなった芭蕉さんに合掌した。

触らぬ鬼に祟りなし