※耳雄←夢主←委員長 こんな感じです
今日も日野くんは元気いっぱいになにかと闘っている。彼が手足をばたつかせたりパンチしたりキックしたりと大暴れの様子を教室の隅から見守った。曰く、悪霊がいるらしい。もちろん私にはなにも見えない。というかこのクラスのほとんど全員なにも見えないので、私たちにはただ日野くんが必死の形相でシャドーボクシングしているようにしか見えないのである。そしてそれは我がクラスの名物となりつつあった。つまり、これが日常なので誰も気にしないのだ。気にしないというのは少し御幣があるかもしれないが。私たちはそれに巻き込まれないよう、少しだけ距離を取る。……だったのだけれど、そこにいつの間にか一人の女子生徒が加わった。
「ぜっっったい、そうだよね」
「……なにが」
委員長は呆れ顔で頬杖をついていた。どうやら、声に出ていたらしい。はっと口を塞いでももう手遅れのようだったので私は誤魔化す方に舵を切った。
「あ、いや、実は委員長の伊達メガネ疑惑が持ち上がってたんだけどさぁ……」
「何でだよ」
「だって、委員長でメガネなんて……キャラ作りとしか思えないもん」
「いやさすがにキャラ付けで視力落とすほど体張るつもりはない」
ひとつ前の席に座る委員長、こと平川くんには霊感があるらしい。よく心霊現象に遭遇してしまうらしく、そのことを度々私へと愚痴ってくる。日野くんにも相談しているようだが、彼と違って委員長は断然頭脳派だ。「霊には物理攻撃!」がモットーの日野くんからのアドバイスはあまり役に立っていないようだった。どうしてこの正反対とも言える二人が仲良しなのか私にはさっぱりわからなかったが、もしかして心霊現象がきっかけだったのだろうか。
「そういえば最近、幽霊がどーのこーの言わないね」
「ん?ああ……そうだな、最初の頃よりは慣れてきたからな」
「委員長もそのうち暴力的解決するようになるんじゃ」
「なるわけないだろ。俺には耳雄のやり方は無理だ」
「……だよねえ」
私たちはなんとなく日野くんの方へ揃って顔を向ける。鬼の形相で拳を振るう日野くん。それをちょっと離れたところから応援する一人の女子生徒。腰が引けているのは心霊現象に耐性がないかららしい。ややあって日野くんが「おとといきやがれ!」と叫んだ。どうやら戦闘は日野くんの勝利によって幕を閉じたようだ。いつの間にか固唾を飲んで行く末を見守っていた私はほっと息を吐き、机に突っ伏した。日野くんが負けるなんて想像もできないから当然といえば当然なのだろうけど。
「隠さなくてもいいんだぞ」
その声はとても優しい声で、委員長の普段の私に対する扱いからは想像できないものだった。顔を上げると委員長が微妙な顔でこちらを見ている。相変わらず眼鏡が分厚すぎて表情が読めない。
「……ばれたか。実は昨日委員長のお弁当から唐揚げを拝借したのは私なのだ」
「はぁ!?お前だったのか、俺の楽しみを奪い去ったのは!」
……ってそうじゃなくて、と100点満点のノリツッコミを披露してくれた後、委員長は人差し指でズレたメガネを直した。
「耳雄の事だろ?」
「……日野君が何よ」
「だから……あいつと相はッ!!!」
言い終わる前に脳天にチョップを喰らわせると、委員長は頭を抱えて踞った。
「別にあんな不良霊感野郎、興味ないんだけど」
自分でも嫌気がさすほど、憎たらしく言い捨てた。
「……可愛くねー女」
「そりゃどうもありがと」
さっきより一層深い溜め息を吐く委員長に私は満面の笑みをお見舞いした。
メガネと不良と私